胎内記憶の調査

「おなかの中にいたときのこと、覚えているよ」と語ったことのある子どもは、これまで決して少なくなかったでしょうが、胎内記憶が注目されるようになったのはごく最近のことで、2002年に私が大規模調査を実施するまで、大がかりな調査がなされたことはありません。

私が胎内記憶に関心をもった1999年ごろ、記憶の保有率を含む胎内記憶に関する調査は、知る限りではわずかなものでした。
そこで一層の調査の必要性を感じ、2000年から、母親を対象に独自にアンケートを開始したのです。

第1回の調査は、2000年8月から 12月にかけ実施しました。
内容は
「お子さんには、おなかの中にいたとき、あるいは生まれたときの記憶がありますか」
というもので、私の池川クリニックに診療を受けに来る母親や、助産院、幼児開発センターの協力を得てアンケートを配布し、 79人から回答を得ました。

それによると、

胎内記憶がある子ども 42人(53%)
誕生記憶がある子ども 32人(41%)

という結果でした。
胎内記憶に関心がない人はそもそも回答してくれませんから、保有率は現実より高くなっている可能性があります。この調査では胎内記憶の正確な保有率は導き出せませんが、子どもたちの語る内容はきわめて興味深いものでした。

子どもたちの語った内容は、

「明るかった」
「うすぐらかった」

というように、明るさに関する言及が最も多く、

「まるまっていた」
「逆立ちしていた」

などの、胎内での動きや状態となっています。

「くさかった」
「あたたかかった」
「冷たかった」
「楽しかった」
「さみしかった」
「苦しかった」

という回答もあり、胎内記憶は五感すべてにわたるだけでなく、胎児としての感情を覚えている子どももいたのです。

2001年9月、私は この79人の子どもの語った内容を、全国保険医団体連合(保団連)第16回研究集会という、医療研修会で発表しました。
この内容を掲載した新聞記事は大きな反響を呼び、私はこの新聞社が長野県諏訪市と協同して50年以上にわたり開催している「保育セミナー夏期保育大学」に講師として招かれることになりました。

さらに2002年には、長野県諏訪市すべての保育聞に通う園児を対象に、胎内記憶のアンケート調査を実施。翌2003年には、長野県塩尻市の協力を得て、諏訪市と同じように、すべての保育園にアンケート調査を実施しました。

諏訪市での調査結果については、2003年四月にチリのサンチアゴで開催された、第17回 FIGO World Congress of Gynecology and Obstetrics
で発表しました。また、塩尻市の調査結果については、2004年4月 25日、国立京都国際会議場で開催された「赤ちゃん学会」(新生児の能力と周産期医療のあり方を探る研究会)で、報告しています。

諏訪市と塩尻市における2回の調査は、胎内記憶・誕生記憶に関心がある母親以外にも、一般の保育園、幼稚園というごく平均的な親子3601 組を対象にしているため、より信頼性は高いといえます。
アメリカや現在の日本では、個人情報の取り扱いが厳しいため、このような大規模な調査を行なうのは難しいでしょう。その意味では、この調査は、世界的にも大きな意味をもっと考えられます。

諏訪市、塩尻市における大規模調査結果の概要は、以下の通りです。

〈期間〉
 諏訪市2002年8月〜9月
 塩尻市2003年12月
〈対象〉
 諏訪市(人口約5万2000人)市内の全保育園 17カ所
 塩尻市(人口約6万5000人)市内の全保育国 19カ所
〈平均年齢〉
 母親:33.7±4.4歳、子ども: 4.0±1.4歳
〈アンケート発送・回収数〉
 諏訪市 発送数1773 回収数838 回収率 47.3%
 塩尻市 発送数1828 回収数782 回収率 42.8%
 合計発送数3601 回収数1620 回収率 45.0%
〈アンケート内容〉
 * 母子の年齢
 * 子どもの性別
 * 胎内記憶・誕生し記憶があるか
 * 記憶がある場合は、何歳のとき、どんな状況で話したか
 * 語らない場合は、ただ忘れているからか、それとも話すことを拒否しているからか
 * 妊娠中の母親の状態
 * 安産だったか難産だったか
 * 分娩の方法(自然分娩、帝王切開、吸引器具や甜子を使用したか)
 * 母親本人に胎内記憶・誕生記憶はあるか

この大規模調査の結果などから、わかってきたことをまとめてみましょう。

 

(1)子どもたちは胎内記憶をいつから語るのか

子どもたちが保護者に、最初に胎内記憶のことを語った時期は、 2〜3歳がピークであり、4歳を過ぎると少なくなっています。
O歳児で2人ほど胎内記憶があるという回答がありますが、これは「生まれる前にはどこにいたの?」という親の問いかけに対して、おなかを指さすなどのジェスチャーで答えたケースです。

0〜1歳 2人
1〜2歳 13人
2〜3歳 142人
3〜4歳 187人
4〜5歳 56人
5〜6歳 23人
6〜7歳 5人

(2)性差はあるのか

1620回答のうち、胎内記憶を有する性差は認められませんでした。

胎内記憶 男児 268人/女児 254人
誕生記憶 男児 174人/女児 158人

(3)子どもたちはどのような状況で思い出すのか

圧倒的に入浴中と寝入りばなが多いようです。胎内記憶について語り始めるのは、母親のぬくもりに包まれたり、リラックスしていたりすることが、胎内にいたときの心地よい感覚を思いだすきっかけとなるのではないでしょうか。