胎内の状況は子どもの将来を左右する

研究結果をご紹介しましょう。
バーニー博士は、著書『胎児は知っている母親のこころ』の中で、イエール大学、プリンストン大学、ロックフェラー大学などの最新の研究から導き出された科学的事実を明らかにし、胎児期の重要性を繰り返し説いています。
そこでは

「受精から始まるあらゆる初期体験は、実質的に、子どもの脳の構造に大きな影響を及ぼしている」

といっているのです。

母親の態度、感覚、感情、思考は、ホルモンや神経伝達物質の分泌に影響し、それらは血液の流れに乗って胎盤を通り、胎児の発達中の脳に届いて、脳の配線を決定します。このことは、妊娠中に母親が考えたことは、アルコールやニコチンと同じくらい確実に胎児に伝わっていることを示しています。

母親が愛されて守られていると感じ、情緒が安定していると成長を促すプログラムが、母親が悲しみに打ちひしがれているときには防衛を優先するプログラムが子どもの脳の配線として選択します。
そして、母親が暴力的な環境にさらされていると、子どもの脳には暴力の種が植えつけられてしまうというのです。

これは、種を環境に適応させて存続させるために自然が行なうメカニズムです。子どもは誕生後、母親を取り巻く環境と同じ場所で成長する確率が高いのです。

バーニー博士は、暴力的な人間はその原因が遺伝子などにあるのではなく、

「幼いころに暴力や育児放棄を受けた体験である。虐待された子どもはしばしば暴力犯罪者となる。いまや数多くの研究結果がいっせいに、暴力と虐待が世代聞に伝わることを示している」

と結論づけています。

全米で大きな反響を呼んだ『育児室からの亡霊』(ロビン・カー=モース、メレディス・S・ワイリー著)では

「暴力の種は、胎児として過ごす9カ月と、誕生から2歳までの24カ月を合わせた期間(33カ月)に育まれる」

といいます。
著者は、

「怒りと絶望に身を委ねた子どもたちの亡霊。それは、その存在にコミュニティが気づかないまま見過ごされ、そして、『見過ごす』という虐待に等しい行為に対して報復してくる。子どもたちはいかにも子どもらしく『やられた通りにやり返す』のである」

と述べています。そして、犯罪を減らすには、法律を厳しくするよりも、まずは育児環境を整えることが重要だというメッセージを発信しています。そしてそれは生まれてからの環境だけでなく、胎児期からの環境づくりという意味なのです。